INTERVIEW

職人図鑑 # 43 上林 猛志(58歳)

塗装職人の思い、こだわり、プライド「塗志」の道を歩み続けていくつもりです

Kamibayashi Takeshi(age58)

Kamibayashi Takeshi(age58)

有限会社上林塗装代表取締役。1962年2月8日、埼玉県生まれ。高校卒業後、東京の塗装店に就職、塗装職人の道を歩み始める。1年後、故郷・秩父に戻り、父・登氏の上林塗装に入る。上林塗装は1987年に有限会社上林塗装として法人化。2009年に代表取締役に就任

Chapter 1

上林塗装は70年前に創業。歴史を背負っていると感じています

 上林塗装は2016年に亡くなった親父、登が70年前に独立、創業しました。以来、この秩父で地元密着で仕事を続けていますが、創業当時はクルマなんて手が出ないので、自転車の両ハンドルにペンキ缶をかけて、道具袋をかついで現場に通ったそうです。秩父は盆地ですけれど、坂道はいたるところにあって、親父はたいへんだったんだろうなと、いまも思いにふけることがあります。

 親父や私の駆け出し時代は、刷毛だけで塗装していました。それに、刷毛も使いやすいように自作したり、自分で手入れをしたりしていたんです。うちの会社には「タンバ」という道具が残っています。「塗師屋小刀(ぬしやこがたな)」とも呼ばれますが、塗師屋とは漆塗り職人のこと。

 もともと、漆塗り職人が刷毛をつくったり、ヘラを削ったりするための小刀なんです。漆塗り職人は古来の塗装職人ですから、その流れでペンキを使う塗装職人は「タンバ」と呼んで、愛用していたんです。自分は塗装技術を親父から学びましたから、「タンバ」の使い方も仕込まれています。いまはめったに使うことはありませんが……。

 高校を卒業後、東京の塗装店に入りました。たまたまなんですが、塗魂ペインターズでご一緒している山越塗装、山越達也さんの叔父さんの店だったんですよ。親方は独立前、親父と同じ店で働いていた同期だったので、紹介されたわけです。達也さんのお父さん、山越塗装を創業された山越敏司さんは秩父出身なんですが、縁があるんですよね。

Chapter 1 上林塗装は70年前に創業。歴史を背負っていると感じています Chapter 1 上林塗装は70年前に創業。歴史を背負っていると感じています

Chapter 2

塗装職人になった頃、秩父の街は建設ラッシュ。ものすごく忙しかった

 東京での現場は、新宿やら、田園調布やら……田舎から出てきたばかりの18歳でしたから、見るもの見るものが目新しく、楽しかった。ときには、現場帰りに作業着のまま、怖いものなしで歌舞伎町を歩いていました(笑)。

 1969年10月に西武秩父線が開通して、池袋駅から直通運転も始まり、その頃、この街は住宅などの建設ラッシュだったんです。塗装の仕事は大忙しでした。また、いまのように新建材がなかったから、塗装しなければいけないところが多かったんです。また、古くからの木造建築の木材の黒ずみや汚れを洗い落とす「灰汁洗い」という仕事も多かった。すごく忙しかったんですが、いろいろな仕事ができましたから、職人として勉強になりました。

 ずいぶん、時代は変わりました。塗装でもその頃、ローラーが登場してきたんですが、「何じゃ、これ?」と思いましたからね(笑)。

 親父や自分たちは「刷毛を使いこなせてこそ、一人前の塗装職人」という世代でしたから……塗料にしても、隔世の感があります。

 でも、新しいモノ、時代の流れに対応していかないと、世のなかに乗り遅れていってしまいます。自営で塗装業をやっていると、常に将来に不安を感じてしまうんです。いまは仕事があるけれど、明日はわからない。先に先に進んでいくつもりでないと、世のなかの流れに追いついていけません。たとえば、ドローンや赤外線サーモグラフィーカメラ。屋根塗装や外壁塗装、雨漏りに効果を発揮しますから、導入しない手はない。いちはやく導入すれば、他の塗装店と差別化していくこともできますからね。

Chapter 2 塗装職人になった頃、秩父の街は建設ラッシュ。ものすごく忙しかった

Chapter 3

自分たちが本当に納得したことを、お客様におすすめしていきたいんです

 いまの時代、何が起こるかわかりません。1年前、まさかコロナ渦が起こるとは思ってもみなかったんですからね。いざ何かが起きたときのために何ができるかを、先に先に進んで、考えておくという。

 上林塗装でいちはやく取り入れている光触媒塗料には、保温性、空気浄化、安全性、耐汚染性、脱臭効果、防カビなどの効果などがあります。また、光触媒塗料にはさまざまな種類があるんですが、アパタイト光触媒塗料には、細菌やウイルスを吸着、分解する抗菌効果が認められています。

 それで、塗料メーカーさんとも相談して、自分たちで実験してみたりもしているんです。

 たとえば──アパタイト光触媒塗料を塗って、細菌を付着させて、「ルミテスター」という計測機器で細菌が残っているか試してみたら、明らかに減っていた。この機器ではウイルスの計測はできないのですが、効果は期待できると思います──お客様におすすめするのには、自分たちが納得しなければ、半分、騙しているようなものですからね。自分たちはそういうことはやりたくない。やみくもに先に先に進もうとしても、無理が生じてきますからね。

Chapter 3 自分たちが本当に納得したことを、お客様におすすめしていきたいんです Chapter 3 自分たちが本当に納得したことを、お客様におすすめしていきたいんです

Chapter 4

塗装にかける思い、こだわりを「塗志」という言葉にしました

 上林塗装では、塗装にかける思い、こだわりを「塗志(ぬりし)」という言葉にしています。先述したように、漆塗り職人は「塗師屋」「塗師(ぬし)」は呼ばれますが、「塗師」には職人としての誇りが感じられます。伝統的な職人としての技、腕だけでなく、職人としての魂を受け継いでいこうというを志も感じられます。現代の塗装職人も「塗師」だと思うんですが、志をより強く持った「塗志」を目指していこうということです。自分の名前「猛志」という自分の名前にも「志」があるので、ちょうどいいと思いましたけど(笑)。

 幸い、長男の勇介も、次男の奎介も自分の跡を継いで、塗装職人の道を歩んでいます。自分では「塗志」を受け継いでくれていると、勝手に思っているんですが、勇介にも、奎介にも、「跡を継いでほしい」とか「塗装職人にならないか?」とか、一度も言葉で伝えたことはないんです。継いでもらいたいと願う一方、自分なりの道を歩んでほしいという気持ちもありましたからね。

 自分も親父から言われたことはなかったんですが、もし言われていたとしたら、反発していたかもしれないという気持ちもあったんですけど(笑)。

 彼らは自分で考えて、自分で決めてくれました。親父から受け取ったバトンを息子たちに渡すことができて、本当に嬉しかった。親父も勇介、奎介が塗装職人になりたいと言っていると聞いて、満面の笑顔を見せていました。今年1月に初孫、勇介の長男が生まれたんですが、将来、親父のような笑顔ができることを夢見ています。

Chapter 4 塗装にかける思い、こだわりを「塗志」という言葉にしました Chapter 4 塗装にかける思い、こだわりを「塗志」という言葉にしました
Chapter 4 ことができた、塗装職人として大切な姿勢です先に先に進んでいく──このことも、親父から学ぶ
※仕事現場では常にマスクを着用していますが、写真のためにマスクを外して、適切なソーシャル・ディスタンスを取って、撮影しています。

掲載日:2020/9/17

あわせて読みたい

  • 職人図鑑 #01 近藤 佳充

    INTERVIEW

    職人図鑑 #01 近藤 佳充

    職人姿の父を見て育ち、そしてボクも職人になった

  • 職人図鑑 #02 田中 裕二

    INTERVIEW

    職人図鑑 #02 田中 裕二

    塗装を一生の仕事にしていこうと思ってます

  • 職人図鑑 #03 杉井謙一

    INTERVIEW

    職人図鑑 #03 杉井謙一

    職人として爪痕の残るような仕事をしていきたい!

  • 職人図鑑 #04 大池 剛

    INTERVIEW

    職人図鑑 #04 大池 剛

    いま改めて、塗装職人の道を選んでよかったと思っています。

  • 職人図鑑 #05 三宮 望

    INTERVIEW

    職人図鑑 #05 三宮 望

    自分には、身体を動かす仕事が向いていると思う

  • 職人図鑑 #06 鈴木 育也

    INTERVIEW

    職人図鑑 #06 鈴木 育也

    創業117年という歴史の重みを信頼につなげていきたい

  • 職人図鑑 #07 細包 大輔

    INTERVIEW

    職人図鑑 #07 細包 大輔

    塗装の仕事をずっと続けていきたい

  • 職人図鑑 #08 南川 学

    INTERVIEW

    職人図鑑 #08 南川 学

    お客さんが喜んでくれる顔に仕事の手応えを感じます

  • 職人図鑑 #09 山越 敏司

    INTERVIEW

    職人図鑑 #09 山越 敏司

    ペンキ屋稼業60年。いまも働けるのは幸せだと思う

  • 職人図鑑 #10 山越 達也

    INTERVIEW

    職人図鑑 #10 山越 達也

    技術を次の世代にきちんと伝えていきたい

  • 職人図鑑 #11 山越 弘尭

    INTERVIEW

    職人図鑑 #11 山越 弘尭

    職人として、祖父と父を尊敬しています

  • 職人図鑑 #12 白井 悟

    INTERVIEW

    職人図鑑 #12 白井 悟

    将来に向けて、いま挑戦しているところです

  • 職人図鑑 #13 金丸 孝治

    INTERVIEW

    職人図鑑 #13 金丸 孝治

    「塗装家」としての仕事をしていきたい

  • 職人図鑑 #14 竹村 満弘

    INTERVIEW

    職人図鑑 #14 竹村 満弘

    オンリーワンの塗装店を目指していきたい

  • 職人図鑑 #15 平井 勇

    INTERVIEW

    職人図鑑 #15 平井 勇

    若い職人たちをきちんと育てていきたい

  • 職人図鑑 #16 元木陽史

    INTERVIEW

    職人図鑑 #16 元木陽史

    教えることで仕事の本質が見えてくることもある

  • 職人図鑑 #17 大塚裕貴

    INTERVIEW

    職人図鑑 #17 大塚裕貴

    新たな夢にわくわくしているところです

  • 職人図鑑 #18 櫻井英樹

    INTERVIEW

    職人図鑑 #18 櫻井英樹

    技術を次の世代にきちんと伝えていきたい

  • 職人図鑑 #19 福本貴之

    INTERVIEW

    職人図鑑 #19 福本貴之

    職人として、祖父と父を尊敬しています

  • 職人図鑑 #20 徳竹秀介

    INTERVIEW

    職人図鑑 #20 徳竹秀介

    塗装職人の技術を後世へ伝えていきたい

  • 職人図鑑 #21 小田垣雅也

    INTERVIEW

    職人図鑑 #21 小田垣雅也

    塗装の仕事が自分の趣味、生活そのものになっています

  • 職人図鑑 #22 秋山俊介

    INTERVIEW

    職人図鑑 #22 秋山俊介

    オンリーワンの塗装店を目指していきたい

  • 職人図鑑 #23 金子祐太

    INTERVIEW

    職人図鑑 #23 金子祐太

    いまの会社で勤めあげたいと思っています

  • 職人図鑑 #24 佐藤優気

    INTERVIEW

    職人図鑑 #24 佐藤優気

    親父の働く背中を見てきて……将来の夢は独立です

  • 職人図鑑 #25 佐藤義保

    INTERVIEW

    職人図鑑 #25 佐藤義保

    いまの会社に移って、次のリングに立てた気がする

  • 職人図鑑 #26 石塚舞樹

    INTERVIEW

    職人図鑑 #26 石塚舞樹

    いまの会社で勤めあげたいと思っています

BACK TO TOP